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トラウトと自然を愛する男の北海道ライフ  FISHING&CAMPING from north latitude 45°

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鮭の最期

更新日:

10月。
私の中では鮭釣りもひと段落し、気持ちは秋のイトウへと切り替わってゆきます。海岸では今も鮭を狙って、多くの釣り人が竿を出し、「鮭祭り」がロングラン開催中です。それを横目に見ながら、私はハンドルを山へと向けます。仲間と会話を交わしながら、ロッドを振り、他の釣り人と、ルアーやラインが絡まないように、ルアーの投入と回収を繰り返す。この釣りが一カ月も続くと、時折走る列車の音以外、人工的な音が聞こえないイトウの川が、恋しくなるのです。紅葉に染まった、色鮮やかな落ち葉が水面を流れ、滔々と流れる大河に、サラサラと流れる、透き通った水の支流が流れ込むこのポイントが、私の中で、秋のイトウ釣り定番ポイントです。ここで他人に出会う事は、先ずありません。よく現れるのは、キタキツネとエゾシカ。ここで対面した事は無いものの、遠くで私を見つめている視線の主は、おそらく羆。姿隠せども、痕跡隠せず。大きな足跡と真新しい"落とし物"が数か所に。そして、無残な姿の鮭達も。ただ、一見無残に見えるこの鮭が、実は最も幸せな鮭だと思います。

 
 2000年に入ってからでしょうか、北海道では、鮭稚魚の放流を漁港から行う地域が、どんどん増えてゆきました。1980年代後半から、試験的に枝幸方面等で実施されていたようですが、それが本格化したのが、2000年頃だと思います。私が住む街の漁港で、それが始まったのは、確かその頃です。それまでの鮭釣りと言えば、砂浜に長い竿を何本も林立させる投げ釣りと、百人近い釣り人が、海岸に横一列に並ぶ、ルアーフィッシングが主でした。それが、漁港からの放流が始まって3~4年後、漁港での鮭釣りが一般的になってきたのです。それは、漁港から放流された鮭の多くが、漁港へ回帰するようになったからです。鮭の優れた母川回帰能力が仇となった、鮭の悲劇の始まりです。
 
 当然ながら漁港は川ではありませんから、"浅瀬"なんてありません。唯一の浅瀬は、斜路くらいです。それから"上流"も"瀬"もありません。そんな中でも、鮭の身体は産卵に向けて変化してゆきます。皮は分厚く硬くなり、楕円の身体は、どんどんシャープに。雄は鼻が尖って曲がり、雌の体内では卵がバラけ、しまいには、産む気が無くても、体内から卵がパラパラ落ちてきます。それでも、産卵するべき場所が見当たらず、鮭は港内をグルグルと回り続けます。そんな中で多くの鮭が、私たち釣り人によって、釣りあげられます。そして、いよいよ力尽きた鮭は、港の底へ沈み、目的を果たせぬまま一生を終えるのです。釣り上げられた鮭は人間が、海底に沈んだ鮭は、海中の生物が分解し、どちらも最期には「食べ物」となり、その姿を消してゆきます。4年間、広い海で、厳しい生存競争に勝ち残ったにも関わらず、目的を達成できると信じて故郷柄帰ったにも関わらず、生き物本来の目的である「子孫」を残す事が出来ないままに。

 一部の鮭は考えました。ある年、漁港の一部から、真水が流れ込んでいる事に気づいたのです。そして、潮の満ち引きや波を利用し、その穴へ入り込みました。鮭達は、次から次へとその川へ入り込み、街中を流れる小さな川へ遡上してゆきます。街を流れる川に遡上した鮭は、一躍注目の的となり、地元の新聞紙には、写真付きで掲載されました。小さいとは言え川ですから、"上流"も小さな"瀬"もありました。そこで産卵行動を終え、目的を果たして息絶えていったのです。ところが、息絶えた鮭達が腐敗し始めると、人々の目は変わりました。臭いのです。無数の鮭が、住宅街を流れる河川で腐敗しているのですから、住民が白い目で見る事は、容易に理解できます。役場の職員は川へ入り、腐敗した鮭を、全て廃棄しました。恐らく産卵し、受精したであろう卵も、人間が踏み荒らした川では、孵化する事もありません。次の年から、鮭が回帰する時期になると、漁港の小さな穴に、フェンスが設置されるようになりました。身体がシャープになった鮭の一部は、フェンスを潜り抜けましたが、更に翌年には、フェンスが2重になりました。漁港に回帰した鮭は、人間が意図的に受精させた卵から生まれ、人間の手により放流され、せっかく回帰したにも関わらず、産卵はおろか、川へのぼる事すら許されないのです。

 
 こういった鮭達が多く存在する一方、人気のない川の上流で、息絶えている鮭達は幸せです。それがいかに幸せなことか、本人達は気づいていませんが。彼らは、目的を、最期まで達成出来たのですから。それから、途中で羆の餌食となった鮭だって、漁港の鮭よりは、幸せです。しっかりとした故郷を持ち、またそこへ帰る事が出来たのですから。
 そんな鮭達が群がる上流でイトウを狙うも私の"目的"は達成されず。それを達成する為に最下流部へ移動してきた私は、最も幸せな鮭を目にする事が出来ました。川で生まれ、川を下り。海で成長し、川へ戻り。パートナーと出会い、産卵。そして・・・・

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再び海へ・・・。

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