北海道には「イトウ」という巨大なトラウト(鮭鱒の仲間)が棲んでいます。学名は"hucho perryi"。PeryでもPerryでもなくPerryiが正確な綴りです。この名はペリー提督が北海道へ上陸した際にイトウを発見し、学会へ報告したことから付いた名前です。イトウは他にモンゴルやロシア等にも生息しており、それぞれが異なる学名を持ち、またそれぞれルックスが全く異なります。私は日本のイトウ以外写真でしか見た事がありませんが、個人的には日本のイトウが最も美しいと思っています。
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イトウは生粋のネイティブです。ごく一部を除き、ほぼ全てのイトウが自然産卵・孵化で繁殖しています。シロザケやサクラマス等と異なり、大規模な人工ふ化や放流は殆ど行われていません。「殆ど」というのは、ごく一部の団体がイトウの採卵/孵化/放流を行っている為です。行政や漁協が主導するような事業は行われていません。これがイトウの魅力の一つです。北海道の鮭鱒族で生粋のネイティブと呼べるのは「アメマス(エゾイワナ)・イトウ」の2種くらいではないかと思っています。
イトウの生態を少し知れば、北海道の自然が少しわかります。イトウの誕生~成熟するまでを簡単にまとめてみます。
2.小さな小さな稚魚は川岸や水路の奥にある溜り等、流れが緩やかなところで、流下する水棲昆虫や微生物を食べて約一年を過ごします。
3.ヤマメ程度の大きさになったイトウは、徐々に行動範囲を広げます。オタマジャクシやドジョウ、小さな川エビ等も食べます。
4.4年~6年程度で成熟します。この時の大きさは40~50cm前後。とてもゆっくりと成長します。
5.成熟したイトウは、河川の最下流部へも行動範囲を広げます。春に遡上するトゲウオやワカサギを主に、ウグイやヤツメウナギ、時にはヘビやネズミも食べ、巨大化していきます。生きている限り成長が続き、成熟後したイトウの成長速度は「一年に1cm」と考えられています。豊富な餌を求め、海へも降ります。
6.春、雪解け水で川が増水する頃に、イトウは産卵をします。イトウの婚姻色は美しく、頭部を除き、体(特に背から横にかけて)が赤く染まります。増水により濁り、物凄い勢いで流れる川を、最上流部まで遡ります。主に岸寄りの水流がやや弱まったゾーンを泳いで遡上しますが、障害物がある時は、流心の激流を力強く泳ぎます。段差がある時にはジャンプして越えて行きます。
目的のエリアに到達したイトウ達は、ペアとなり産卵を行います。複数のオスが一匹のメスを奪い合い、激しい争いを繰り広げますが、最終的には体の大きい方が勝利します。
7.産卵を終えたイトウは、下流へ向かいます。たくさんの餌を食べ、産卵で弱った体を回復させます。
これを全て行う事が出来る川。それが「イトウが棲む川」です。
上流は水が澄んだ渓流、蛇行して緩急のある流れで、水路により小さな溜りと繋がっていて、ダムや堰堤等の行く手を阻む物が無く、もしくはあったとしても魚道が設置されていて、下流は泥底となり、海と繋がり、また海から豊富に餌が遡上し、その海も豊穣である事。中流~下流の水はタンニンが溶け込んだコーヒー色の水でなければなりません。こんな川、今の日本にいくつありますか。そんな川がいくつも流れている場所。それが北海道の北部と東部。北海道で生まれ育った私が、最も北海道らしいと愛するエリアです。皆さまにも北海道の自然に興味を持っていただき、少しでも北海道を好きになっていただき、そんな中で、僅かでもイトウに興味を持って下されば、それがイトウの保護、北海道の自然環境の保全へと繋がると考えています。イトウは今、環境省レッドデータ/絶滅危惧IB類に属しています。